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海外投資家からの取材、英語で即答できますか?IR担当者が準備すべき5つの対応力

グローバル化が加速する現代において、日本企業にとって海外投資家との対話は不可避です。

特にIR担当者にとって、英語での投資家対応は企業価値を左右する重要な業務です。

「通訳を活用すれば対応できる」と考える担当者もいますが、直接コミュニケーションができることで得られる信頼や関係構築の機会も見逃せません。

本記事では、なぜ英語での対応力が求められるのか、そして実践的なスキルを身につけるための具体的な方法について解説していきます。

なぜ「英語で即答できるか」がIR担当者にとって重要なのか?

海外投資家との対話において、英語での対応力は単なる語学スキルの問題ではありません。それは企業の透明性、経営陣の理解度、そして組織全体の準備態勢を示す重要な要素として認識されています。

グローバル市場で競争する日本企業にとって、この能力の有無が投資家との関係構築に影響を与えるケースが増えているのです。

通訳任せでは伝わらないIRの本質

通訳を活用したコミュニケーションは多くの場面で有効ですが、制約があります。投資家が求めているのは、単なる言葉の翻訳ではなく、経営陣の思考プロセスや戦略に対する理解の深さです。

通訳を介する場合、回答までに数秒から10 秒程度のタイムラグが生じることがあり、その間のやり取りが円滑さを欠く場面もあります。特に財務数値や戦略の詳細について質問された際、担当者が直接英語で補足説明できると、より深い対話が可能になります。

優秀な通訳との適切な連携は重要ですが、担当者自身が英語で基本的なコミュニケーションができることで、通訳を効果的にサポートし、より正確な情報伝達が実現できるのです。

海外投資家は「対応の質」から企業姿勢を判断している

機関投資家やアナリストは、質問への対応の仕方から、企業の透明性とガバナンスの質を評価しています。彼らは多数の企業と面談を重ねており、準備が整っている企業とそうでない企業を見分ける経験を持っています。

質問に対して的確な回答ができる担当者は、「この会社は情報開示に積極的で、経営陣が事業を深く理解している」という印象を与えます。

一方、回答に時間がかかりすぎたり、質問の意図を理解できていないと感じられたりすると、準備不足という印象を与えかねません。

重要なのは反応の速さだけでなく、質問の本質を理解し、正確で論理的な回答を提供できることです。不確かな情報について即答するよりも、確認してから正確に答える誠実さも評価されます。

特に注目されやすい「1on1ミーティング」の重要性

大規模な決算説明会とは異なり、1対1の面談では投資家からの質問がより深く、具体的になる傾向があります。このような場面では、準備した想定問答だけでは対応しきれない質問が出てくることも珍しくありません。

直接英語でコミュニケーションできると、投資家との信頼関係構築の貴重な機会を最大限に活かすことができます。また、1on1の場では投資家も率直な意見や懸念を表明しやすく、その場での適切な対応が長期的な関係性に影響を与えることがあります。

通訳を介した場合でも十分な対話は可能ですが、担当者が基本的な英語力を持っていることで、より柔軟で深みのある対話が実現し、企業への理解を深めてもらう機会が広がるのです。

よくある投資家の質問3選──あなたは英語で対応できますか?

実際のIR現場では、投資家から様々な角度で質問が投げかけられます。ここでは特に頻出する3つの質問パターンを紹介します。これらの質問に英語でどのように対応するか、考えてみてください。

1. この四半期の主要な成長ドライバーは?

What were the key growth drivers this quarter?

という質問は、多くの投資家面談で聞かれる基本的な質問です。

この質問に対して単に「売上が増加しました」と答えるだけでは不十分です。投資家が求めているのは、成長の背景にある具体的な要因の分析です。例えば、新製品の貢献度、地域別の成長率の違い、既存顧客からのリピート率の向上、価格戦略の効果など、定量的なデータを交えながら説明する必要があります。

さらに、その成長が一時的なものなのか、持続可能なトレンドなのかについても言及することで、投資家の理解を深めることができます。この質問への回答準備には、財務数値だけでなく、事業部門からの詳細なレポートを英語で整理しておくことが重要です。

日常的に財務データや事業報告を英語で把握する習慣をつけることで、このような質問にも自然に対応できるようになります。

2. 競合との差別化ポイントは?

How do you differentiate yourself from competitors?

という質問は、企業の競争優位性を問うものです。

多くのIR担当者がこの質問に対して一般論で答えてしまいがちですが、投資家は具体的な証拠とデータを求めています。技術的な優位性があるなら特許数や研究開発費の比較、顧客満足度が高いならNPSスコアやリテンション率、コスト競争力があるなら営業利益率の業界比較など、客観的な指標を用いて説明することが重要です。

また、その差別化ポイントが模倣困難である理由や、今後も維持・拡大できる根拠についても述べる必要があります。競合分析を英語で説明する際には、業界特有の専門用語を正確に使いこなすことも求められます。

自社の強みを英語で明確に表現できるよう、日頃から競合環境について英語で整理しておくことが効果的です。

3. 中期経営計画と現状のギャップをどう見ているか?

How do you view the gap between your medium-term business plan and your current performance?

という質問は、経営陣の現状認識と対応策を確認するものです。特に中期経営計画の達成が困難に見える状況では、この質問への回答が投資判断に影響を与えます。

ギャップが生じている場合、その原因を外部環境だけに帰するのではなく、社内の課題や戦略の見直しについても率直に語ることが信頼につながります。さらに、そのギャップを埋めるための具体的なアクションプラン、タイムライン、責任体制を明確に示すことで、経営陣の実行力を伝えることができます。

この質問に対しては、数字の羅列ではなく、ストーリーとして説明できる準備が必要です。計画と実績の差異分析を英語で論理的に説明できるよう、定期的に整理しておくことをお勧めします。

IR担当者が身につけるべき5つの英語対応力

英語での投資家対応は、単なる語学力の問題ではありません。IR業務に特化した複合的なスキルセットが必要です。ここでは、実践的な対応力を構成する5つの要素について詳しく解説します。

① 想定問答(Q&A)をストックする力

効果的なIR対応の基盤となるのが、充実した想定問答集の構築です。過去の投資家面談やアナリストレポートを分析し、頻出する質問パターンを英語で整理しておくことが重要です。

ただし、単に質問と回答を暗記するのではなく、質問の背景にある投資家の関心事を理解し、状況に応じて柔軟にカスタマイズできる「回答の型」を身につけることが求められます。

例えば、業績に関する質問であれば、数値データ、その背景要因、今後の見通しという三段階の構造で答える習慣をつけておくと、様々な質問に応用できます。また、難しい質問や予想外の質問に対する対応方法も準備しておくことで、本番での動揺を最小限に抑えることができます。

想定問答は定期的に更新し、市場環境や自社の状況変化に合わせてアップデートしていく必要があります。社内の関係部署と連携して、最新の情報を反映させることも忘れてはいけません。

② 財務用語・表現を英語で言い換える力

IR業務では、財務会計用語を正確に英語で表現する能力が不可欠です。しかし、専門用語を知っているだけでは十分ではありません。複雑な財務概念を、投資家の理解度に合わせて平易な言葉で説明できる「言い換え力」が求められます。

例えば、「のれんの減損」を goodwill impairmentと言うだけでなく、必要に応じて「将来キャッシュフローが当初想定を下回ると判断された場合に、のれんの帳簿価額を回収可能価額まで切り下げる会計処理」というように、その意味を補足説明できる準備があると良いでしょう。

また、日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)の違いについても説明できるようにしておくと、海外投資家からの理解が深まります。

財務用語の学習においては、単語帳を作るだけでなく、実際の決算説明会資料や海外企業のIR資料を読み込むことで、文脈の中での使われ方を理解することが効果的です。同業他社の英文開示資料も参考になります。

③ 投資家の質問意図をくみ取るリスニング力

投資家の質問を正確に理解することは、適切な回答の前提条件です。特に英語でのやり取りでは、質問の表面的な意味だけでなく、その背後にある真の関心事を読み取る必要があります。

投資家は必ずしも直接的な表現を使うとは限らず、遠回しな言い方や婉曲的な表現で懸念を伝えることもあります。例えば、How confident are you about achieving your guidance?という質問は、単に自信の程度を聞いているのではなく、ガイダンスの達成可能性について確認したいという意図が含まれている可能性があります。

このような質問意図を正確に理解するには、投資家の視点や分析手法についての知識も役立ちます。また、聞き取れなかった部分や理解が曖昧な部分については、適切に確認質問をすることが重要です。

Could you clarify what you mean by…や Are you asking about…といったフレーズを使って、理解を確認することは誠実な対応として評価されます。不明瞭なまま回答を進めるよりも、正確に理解してから答える方が信頼につながります。

④ 簡潔かつ誠実に答えるスピーキング力

英語でのスピーキング力は、流暢さよりも明瞭さと構造化が重要です。投資家が求めているのは、ネイティブのような完璧な英語ではなく、要点が明確で論理的に整理された回答です。

効果的な回答のためには、まず結論を述べ、次にその根拠や背景を説明し、最後に補足情報を加えるという「結論ファースト」の構造を意識することが大切です。また、数字を引用する際には、単位や期間を明確に示し、誤解の余地を残さないようにする必要があります。

例えば、Our revenue grew 15% year-over-year to 50 billion yen in Q2 というように、成長率、比較対象、金額、期間を明確に伝える習慣をつけましょう。さらに、その場で答えられない質問や不確かな情報については、曖昧な回答をするよりも、I don’t have that information right now, but I’ll get back to you と正直に伝える誠実さが信頼につながります。投資家は正確性を重視するため、不確かな情報を即答することよりも、確認してから正確に回答する姿勢を評価します。

⑤ 1on1・模擬取材で実践経験を積む訓練力

どれだけ知識を蓄えても、実践経験なしには本番で力を発揮することは難しいものです。定期的な模擬演習を通じて、緊張感のある状況でも冷静に対応できる力を養うことが重要です。

効果的な訓練には、実際の投資家面談を想定したロールプレイング、予想外の質問への対応練習、限られた時間内での回答訓練などが含まれます。

また、自分の回答を録音・録画して客観的に振り返ることで、話し方の癖や改善点を発見できます。模擬演習では、単に想定問答を読み上げるのではなく、質問者が様々な角度から追加質問をすることで、柔軟な対応力を鍛えることができます。

社内の同僚や上司に協力してもらうことから始めて、徐々に外部の専門家からフィードバックを受ける機会を設けることで、継続的な改善につなげることができます。実践経験を積むことで、理論的な知識が実際の場面で使える「生きたスキル」に変わっていきます。

この5つの力を体系的に習得する方法とは?

これまで述べてきた5つの対応力は、決して生まれ持った才能ではなく、適切なトレーニングによって習得可能なスキルです。

しかし、多くのIR担当者が「準備が必要だ」と認識しながらも、日々の業務に追われて体系的なトレーニングの機会を持てていないのが現状です。

英文開示の知識だけでは、投資家との対話は成立しない

確かに英文決算短信や統合報告書の作成スキルは重要ですが、それだけでは投資家との直接対話には対応できません。文書作成には時間をかけて推敲できますが、面談での質疑応答は瞬時の判断と反応が求められる場面もあります

また、書類では伝えきれないニュアンスや経営陣の考え方、企業文化といった定性的な要素が、投資判断において重要な役割を果たすこともあります。投資家は、準備された資料だけでなく、対話を通じて企業の真の姿を理解しようとしています。

そのため、書類作成スキルと対話スキルの両方をバランスよく磨くことが、現代のIR担当者には求められているのです。文書で伝える力と口頭で説明する力は、相互に補完し合う関係にあります。

だからこそ「模擬取材×反復演習」が効果的

実践力を向上させるには、実際の投資家面談を想定した環境での継続的なトレーニングが効果的です。単発の英会話レッスンや座学の財務英語講座では、IR特有の質問の鋭さや緊張感を体験することができません。

1on1模擬面談を繰り返すことで、質問への対応力、適切な情報量の判断、時間配分の感覚など、実践でしか身につかないスキルを磨くことができます。

「IR担当者向け英語講座」という選択肢

このような実践的なトレーニングニーズに応えるプログラムとして、IR担当者向けの「英語講座」があります。

このようなプログラムでは、金融プロフェッショナルの英語講師が、IRでのご担当範囲・英語レベル・現在の課題をヒアリングし、最適なプランや学習ステップを提案します。普段使っているプレゼン資料や決算説明書など、自社IR資料を教材に使用し、内容を深く理解しながら、英語で「自分の言葉で話せる」力を実践的に養成します。

独学では得られない、専門家からの客観的なフィードバックと実践的な演習機会を通じて、着実にスキルを向上させることができます。自社の状況やニーズに応じて、このような専門的なプログラムの活用を検討してみる価値はあるでしょう。

まとめ|準備不足ではなく、自信を持った対応を目指して

海外投資家との対話において、最も避けるべきは準備不足による不適切な対応です。質問の意図を理解できなかったり、不正確な情報を伝えてしまったりすることは、企業への信頼を損なう可能性があります。

一方で、適切な準備と訓練によって、明確で誠実な回答ができれば、それが投資家との信頼関係構築の基盤となります。

本番でうまく答えられなかったら…そんな不安が少しでもある方へ

海外投資家との1on1やインタビューでは、事前に想定されるQ&Aを準備していたとしても、その場で英語で伝える力が問われます。

とはいえ、IR業務で忙しい中、英語の準備に多くの時間は割けない。

そんな現場の声に応えるために作られたのが、「IR担当者向け英語講座」です。

✅ 自社IR資料を教材にする実践演習
✅ 実際の海外投資家がよく使う表現や質問パターンを網羅
✅ ネイティブ講師と1on1形式でのトレーニングも可能